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創作物語2















なまず観音

 ある日のこと。
池でのんびり暮らしていた、一匹のナマズがおった。

水が温む春の日、ムニュムニュ…クルリン♪
オタマジャクシが、一斉にふ化を始めました。

「あんれまぁ~、ワシとそっくりじゃ!」
仲間が増えたと、大喜びのナマズどん。

オタマジャクシも、大きなナマズを見てお父さんと勘違い。

今まで独りぽっちだったから、毎日々が楽しくてたまりません。

ところが…
オタマの様子が、何だか変わってきました。大きな頭に小さな体…
何と胴体のところから四本の足が出てきました、ナマズどんはビックリ!

オタマもやっとお父さんじゃないことに気づき、ナマズどんと遊ばなくなってしまいました。それでも「お~い、もっと遊ぼうよ」

「僕らは、もう少しで向こうの池に行くんだ」

「ワシも一緒に行きたいが、足が無いからなぁ~」

「ゲロッ、ゲロッ、おじさん、さようなら」ピョン、ピョン…

また、独りぽっちになったナマズどん、池の底で淋しく日々を送っていました。

なが~い雨の日が続き、あっちこっちの池の水が溢れ、大水と一緒にフナやコイが流れに乗って来ました。

ナマズどんを見つけた、フナやコイが「おい、見てみろ!変な奴がいるぞ」
「どれどれ、けったいな顔やなぁ~」じっーと川底にいるナマズどんを突っついたり、回りをグルグル泳いでいます。(ふん!どうせ変な奴ださぁ)

「こいつ、魚じゃないぜ!」「でけぇ口してやがる」「生意気に髭なんざぁ生やして」(ワシは魚じゃない?じゃ何なんだ)

「私達には、立派な鱗があるしねぇ」

「うん、うん、コイさんの鱗は本当に立派だよ」「フナさんのスタイルだって、素敵よ♪鱗もキラキラ光って、とて もゴージャスじゃない」「そうだよね、こいつの肌はヌメヌメしてそうで、ウッッッ気持ち 悪い」

黙って聞いていたナマズどん、もう許せないとばかりに大暴れしたものだから、池の水は濁り、チャップン・チャップン溢れた拍子にフナもコイも流されてしまいました。

雨季の次は、お日様ギラギラ季節、ナマズどんが住む池の水は瞬く間に干上がる寸前。

黒光りした背中も、ジリジリ焦げるような暑さです。(もう、ワシは死んでしまうのか…魚でもない、蛙でもない、ワシ は何なのだろう…)

意識が遠のき始めた頃、池の淵が七色に輝き優しそうな人が立っています。(あんたは、誰なんだい?)

『私は観世音菩薩』(その…観音さんがワシに、何か用があるのかい?)『これ、ナマズや、お前はそのまま死んでもよいのか?』(良いも悪いも、ワシはこのまま干上がっちまうだけ…アッチチ)

『よ~く聞きなさい、お前の大きな口は水を呼び、長い髭で地震の前触れを知る力がある、近隣の村々が何度も大きな災害に遭い困っているのだ。お前が村人を救うなら、池の主として命を助けてやろう。』
(命を助けてくれるついでに、もうひとつ頼みがある。)
『うむ、その願いとは?』

(ワシが魚だと言う証が欲しい、それが叶うなら村人を守ろう)

『証…それではこれから、毎日魚になりたいと念じるが良い、何れ 必ず願いが叶うぞ』

ナマズどんは、たいそう喜び大きな口を開け、池の底を一息吸い込みました。

すると、池の底からコンコン、綺麗な水が湧いてくるではありませんか!!

水不足で争いが起きていた村の衆は大いに喜び、池の側に立つ観音樹木と呼ばれる根元にお堂を建てました。

ナマズどんは、来る日も来る日も観音堂へ水の中から(魚になりたい、魚にしてください)と念じていました。

水が干上がる季節には、池底を口で掘り水を呼び、地震が来る二・三日前から激しく体を揺すり、村人達に知らせる。

いつしか、村人達から「主様」と大切にされるようになったのです。
ある日、観音堂と書かれた板札が、鯰観音堂に変わっていました。
毎日村人を救う姿を見て、観音様が魚へんに念ずると書き「ナマズ」、ナマズどんの願いを叶えて下さったのです。

今でも村人達が「鯰観音さん」と、大切にされています。

※ナマズが地震を教えてくれる、そんなお話を聞いたことがあるでしょう?

ほらほら、見かけで判断しちゃダメだよ、中身が大事なんだよ。
自分の出来ることに気が付いたら良いんだ、無理して背伸びしなくても良いよ、そしたら独りぽっちじゃなくなる。

このお話は、鯰の字から考えてみました。


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へその言い分

 夕暮れ時の台所は、何処も大忙し。。。。。

秋となれば山村の一日は、稲の刈り入れや冬支度の準備に追われ、それは、それは、お日様と追いかけっこ。

金三さんの家も例外ではなく、猫の手も借りたいほどバタバタしています。ある日の夕飯時。

「婆ちゃんは、いいねぇ!黙って座っているだけでも、おまんまが食べられるんだもの」と、隅っこでひとりご飯を食べている、お姑をジロリ横目に見ながら、聞こえよがしに話す金三さんのおかみ。
「おいおい、おっかぁさんに聞こえるぞ」
「なぁ~に、構うもんか!どうせ聞いちゃあいないよ」

ズッズズズーみそ汁食べては音をたて、ポロポロご飯をこぼすお婆さん。。。。

「いいかげんにしておくれ!お前さん、何とか言ってやんなよ!」
「おっかぁ!誰のお陰で飯食って居られるか、解ってるんかぁ」と、母親の耳を引っ張り怒鳴ります。
それでもニコニコしながら、「うんまい、うんまい」(*^~^*)

「チッ!耄碌しゃがって、役立たずが!」

「ほんとに、年は取りたくないわ!」

二人の会話を聞いていた、孫達が……「おとっちゃん、おかっちゃん、婆ちゃんいつ死ぬの?」と言う始末(-_-;)

そんなことが毎晩のように繰り返され、冬も近づいた頃。
お婆さんの姿が見えません。
「おい、おっかぁが居ないけど、知らんか?」

「また、耄碌してどっかに行ったんだわさ、いちいち婆さんの番してる訳じゃないですからね!」

その晩のこと、金三は不思議な夢を見ました。。。。。。

自分の体から声が聞こえてくるのです。

「ちょいと、心臓さん。あんたも、産まれてからずーーっと働きづめだよね。」

「いゃ~、肝臓さんも良く働くよ。ねぇ、腎臓さん。」

「私らは、ふたつで少しづつ助け合いながらだもんで…」

「肝臓さん、何でそんなこと言うのだい?」

「いや~、こんなに休まず働いているのに、腹の真ん中で何にもせず、でかい面して居座っている奴が気にくわん!」

誰だ、そんな奴はと、胃も腸も肺もワイワイ騒ぎ出した。
肛門様まで「わしは、産まれてこの方ず~っと日陰暮らし、オマケに汚いだの言われっ放し!」

そうだ、そうだ、誰なんだい?

「ちょいと見てごらんよ。ヘソの奴ときたら、何にも働かず真ん中に居るだろ?」

みんなで、ヘソ抗議が始まりました。

しかし…、ヘソは何も言わずじーっと辛抱しながら聞いていました。「黙ってないで、何か言ってみろ!」

「役立たずが!」

「でかい面してんなよ!」

「どっか行ってしまえ、邪魔だ!」

とうとうヘソが

「おいおい、心臓さんや肝臓さん、他の皆さんも言いたい放題じゃないか。わたしゃ、あんたらが働けんときひとりで頑張ったの忘れたのかい?おっかさんとわしは、あんたらを何とかこの世に産んでやりたいと、ふんばってきたんだから神様が真ん中に座ってろって。わしが居なかったら、そんな偉そうな口も叩けまい!」

ハッと目が覚めた金三さん、寒い夜道を「おっかぁ―!お袋さん!何処にいるんじゃ―!」
あちらこちら探しても見つかりません。

声も嗄れ、涙で顔はグシャグシャ……

「!?ひょっとして…」
産土神社へ走り出し、階段を飛び跳ねるように駆け上がり…
社殿の前に冷たくうずくまる、おっかさんを抱き上げた。

「おっかぁ!目を開けてくんろう!」

冷え切った体をさすり…
両手をしっかり合わせ握られたなかに、小さな古ぼけた紙包み…
開けてみれば、金三と書かれた文字とへその緒じゃないか!
「おっかさん!俺が悪かった、許してくれ」
大声で泣き出しました。

ハラハラと頬を伝う涙の粒が、おっかさんの瞼へぽとり落ちたとき
「金三や、泣くでねぇ、泣いたら神さんに笑われるっど」

産土の神様が
「金三!お前達に邪見にされようが、倅可愛いや健やかにと願った50年前、今また倅家族の為にと命がけの願掛け、誠に尊い母親じゃないか、父母あってのお前、お前達あっての子供達、決して忘れるではないぞ!」

軽くなった母を背負い、家路に着き一部始終を話しました。

それからの一家は、言うまでもありませんね(*^_^*)

ところで、あなたのヘソ(命の源)…
考えてみませんか?



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カラスの涙

チュンチュン…チュンチュン…
村の朝は早い。

ワイワイ、ガャガャ…
村人が庄屋の家へ集まってきた。

「やぁ、皆の衆ご苦労じゃ、ご苦労じゃ」

息子、権蔵の新居を造るため、木の切り出しに行くのです。おなご衆も、子供達も、みんな手伝いをします。

見送る長老が
「山の神様に、無礼にならんよう、ちゃんとお参りするだぞ」
手渡された、御神酒と山海の珍味を片手に出発です。

山の麓でお参りしたあと、神主さんからお話がありました。「山の神さんから、許しを得て、今から山へ入るのじゃが、ひとつ注意をせなならん。」

「獣や鳥たちを持ち帰ってはならん。呉々も約束を忘れるでないぞ」

力持ちの権蔵を先頭に、次々山へ入っていきました。

カァ~ン!コォ~ン!…カァ~ン!コォ~ン!…
ギ・ギィィィィ……
「倒れるぞ~~!」

バッタ~ン!
一本・また一本、木が切り倒されていきます。

お日様が真上に昇った頃、男達は御神酒のお下がりとおにぎりをゴクッゴクッ、パクパク食べたり飲んだり。。。。。

権蔵が小便をもよおし、笹藪へ行った。
ガササッ…カササッ…
「?なんの音だ」

笹藪をかき分けた間に、巣立ち前の子カラスが震えている。

木の上に巣があったのだろう。。。。
「こりゃ~いいもん見つけた」
権蔵は、山の神との約束を破り、懐へ入れ持って帰ってしまった。

その夜、庄屋の家で酒盛りが始まり、酒に酔った権蔵が「おらぁ、山でいいもん見つけただ!」

「権蔵さん、長老や神主の約束守らなぁならん!」

「何言うとる!年寄り連中の戯言なんざぁ、信じられんわい」
権蔵は酒の勢いに任せ、子カラスを連れて帰りました。

竹篭へ入れられた子カラスは、怯え水も餌も食べず痩せ衰えてしまいました。

数日後、やっと子カラスを見つけた親カラス……

篭に捕らわれている子カラス、最後の力を振り絞りカァ…カァ…お母さんを見つめる目は、二度と開くことなく死んでしまいました。

(あ~可哀相に……)
カァ―ひと声大きく鳴き、庄屋の屋敷の空を三回まわり、山へ飛び去っていきました。

やがて、権蔵の新居は完成し、女房と暮らし始め三年目の年に、可愛らしい子供が生まれました。

しかし、どうしたことか…乳を飲まず泣いてばかりいるのです。日に日に痩せ衰える我が子を抱き、女房も困り果てています。

ぐったりした我が子…、
医者も原因が解らず、ありとあらゆる手当の甲斐もなく、今、小さな命の灯火が消えようと…

庄屋も孫の命を助けたく、村人達へ相談しました。

「庄屋さん、ひょっとしたら…カラスの祟りでねぇべか」

一部始終を聞いた庄屋さん、息子に問いただし「権蔵!山へ行って山の神さんへ謝ってこい!」

子カラスを拾った場所へ行ってみると、大きなカラスが死んでいました。

ザワッザワー急に風が吹き
(権蔵よ!お前は、約束を破り山の生き物を殺した!そのカラスは、お前が連れ帰った子カラスの母親じゃ、毎日泣き暮らし死んだのじゃ。)

いつの間にか、木の上に沢山のカラスが集まり、カァカァ!ガァガァ!騒いでいます。「ゆ・許してくれ―!俺が悪かった!子供の命だけは助けてやってくれ!」
(権蔵!獣であろうが、鳥だろうが、我が子を思う親の情に変わりない、二度と同じ過ちを犯さぬと約束するか!)

「はい、約束しますだ!ヘッヘェーーーー」

赤ん坊の命は助かりましたが、約束を守るかカラスは家の上から毎日見ては、夕暮れになると山の神へ報告しに帰っていきます。

それからの権蔵は、人が変わったように何者にも優しくなり、山の神の約束を守り、冬になれば穀物を獣や鳥にも与え、村人からも慕われ庄屋の後を継ぎました。

めでたし・めでたし。

※人は他の命や自然によって、生かされているのですね。



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和尚ときつね

 とんと昔 山奥に一軒の古ぼけた寺があり、そこに和尚と一匹のきつねが住んでおった。きつねの名前は「文左衛門」、なんと立派な名前!

文左衛門が、こぎつねだったとき、その年は大変な不作となり、山に食べ物が無く、飢える子供達を救うため母きつねは、里に下りたのです。

「決して里へ近づいてはならぬ」
きつね一族の掟を破り、人間が作った罠に掛かり、足を痛め歩けず泣いていたところ、和尚さんに助けられました。

しかし、「私の変わりに育ててください」と言葉を残し、その時の傷が元で死んでしまいました。

 それから一人と一匹の暮らしが始まり、いつしか、御本尊様へ朝な夕な和尚の唱える経文をすっかり覚えてしまいました。

驚いたことに、写経まで覚えたきつねを見て、和尚は「文左衛門」と名付けてやりました。

机の前に座り、尻尾に墨を含ませ「仏説…摩訶…般若波羅蜜多…」書く度に尻尾を舐め……

きつねの尾先が白くなり、舐めた口は黒くなる…

 ある日のこと、珍しくお客様がいらっしゃった。「和尚さん、ここのところ何をしても上手く行きません。他所でお伺いをしたところ、あんたには狐が憑いておると言われ、どうしたものでしょう」

襖の陰から聞いていた文左衛門「冗談じゃない!」と、目をつり上げご立腹の様子。

「ところで、あんたは狐が憑いていると思うのかぇ?」
「はい、聞いてから、妙に油揚げが食べたくて、食べたくて…」
「なるほど…、それじゃ明日、狐祓いをしてあげよう」と、決まった。

それを聞いていた、文左衛門が和尚に詰め寄った。

「和尚様、私は師僧と固く信じて参りましたのに…」
「おいおい、文左衛門!早まるではない。」
「でも、先ほど狐祓いするって、言ったじゃないですか」
「わしに任せておけ。ほれ、これで油揚げを買っておいで」

渋々、文左衛門はお使いに出掛けました。

 翌日、約束通りお客さんが来た。

和尚は「さぁて、川へ行こうかね」「川ですか?何しに?」

「シィーーーーッ!黙って付いておいで、狐に気づかれると不味いじゃろう」

川に着いた和尚は、着物を脱ぎ褌一丁になりながら、お客さんの頭へ油揚げを紐でくくり、川の真ん中へ連れて行った。

「カァァァッー!」
の大声と同時に突然、お客の肩をムンズと掴み、川へ沈めた!「グェ!ムグッッ!」
驚き暴れるお客「プッハァー!な・何するんですか!人殺し!」
死ぬやもしれんと必死で叫び、和尚を睨みつけた。

平然としながら合掌をし、経文を唱える和尚。

「ほ~れ、見てごらん。油揚げを追い掛ける狐が見えるじゃろう?」
指さす川の真ん中を、油揚げがぷかり、ぷか~り流れていく。

「狐の姿は見えませんが、何かすっきり致しました。ありがとうごさいました。」
深々と頭を下げ礼を言いました。
 
草陰から様子を伺っていた文左衛門「和尚様、私には狐が見えなかったんですが……」

「アッハハハ!見えたら可笑しいぞ、思い込みの狐じゃもの」

「でも、油揚げを追い掛けているって…、嘘付いたのですか?」「嘘じゃない!こんがりきつね色って言うじゃないか、油揚げの色とおなじじゃ、ハッハハハ」

「文左衛門、自分の不都合を動物や他人様へ、擦り付けても幸せになれんのじゃ、覚えておきなさい」

納得した文左衛門、益々和尚さんが大好きになったとさ。。。。

お・し・ま・い

※神様の使者として、お祀りされて いる狐は、白色や灰色ですね。
赤は魔除け・白は清浄等色には、深い意味合いが込められています。



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すいか泥棒とお呪い

 ほんの少し前 ある村に働き者のテル婆さんが おった。

今日も スイカ畑で汗を流しています。

何やら スイカに向かって ブツブツ独り言。

よ~く聞いてみると・・・・
「今日もいい天気じゃ~、お前達も嬉しかろうて」セッセと草むしりをしています。

雨の日は、ワラで帽子を編み、ひとつずつ被せ
「雨じゃのう、可哀想に。。。ほれ、これを被っておんなせぇ」

来る日も、来る日も、テル婆はスイカに話しかけています。

テル婆の優しい気持ちを知ってか、スイカはスクスク育ち身もはちきれんばかり、大きく・大きく成ってきました。

ある日のこと、畑で一番大きなスイカに手を当て「うんうん、大きゅうなった、あした神さんへお供えさしてもらうべ」
スイカは、とても嬉しかった。

ところが……

いつものように、畑へ行ったテル婆は腰が抜けんばかり驚いた!

沢山の大きなスイカがありません。。。「あんれまぁ!ど・どうしたことじゃ!」
畑のあちこちに大きな靴後がいっぱい・・・、
葉っぱも蔓も滅茶苦茶に踏み荒らされているんです。

ガックリ力の抜けた婆は、小さなスイカの側にへたり込んでしまった。

「誰がこんな悪さしたんじゃ・・・」(おばぁさん…、おばぁさん)「うん?はて・・・誰か呼んだかなぁ」

辺りを見回しても、声の主が見あたりません。。。
(ここよ、ここです)

なんと声の主は、傷ついた小さなスイカ。

びっくりするお婆さんに
(今から言うとおりにして)
ヒソヒソ…
「うんうん」…
何やら聞いたテル婆は、急いで家に戻りました。

チィ~ン・チィ~ン…
お仏壇へ手を合わせ、ローソクと線香を持って先ほどの畑へ戻りました。千切られたスイカの所へ線香を立て、ローソクでスイカの蔓に火を近づけチリチリ焼き、教えられた通りに呪文を唱え始めたのです。
「これこれ スイカや熱いか痛いか 痛ければ盗人の腹痛くなれ そわか」
あっと言う間に、スイカの蔓は黒こげになりました。

翌日のこと
隣村で奇病が出たとの話が、テル婆の耳に入ってきた。「ほれ、あそこの怠け者息子が
、急に腹が痛うて医者に診て貰っても、治るどころか転げ回って苦しんでおるそうじゃ」「何ぞ、あれのことやまた悪さしでかしたじゃろうて…」

噂を聞きつけ、テル婆は隣村へ行ってみることにした。

「う~ん…う~ん」
あまりの痛さで顔を赤くしたり、青くしたり腹を抱え七転八倒する男がいた。
「あんた、どうしたんじゃ」
「う~ん…う~ん…スイカ喰ったら…アーーイテテテッ」

テル婆にはすぐこの男が、スイカ泥棒だと解りました。

そこで「お前さんとこの、スイカかね?」
「あ・当たり前だ」
身がよじれんばかり苦しんでも、まだ嘘をつきます。

そばに捨ててあるスイカの蔕が黒く焦げている。。。。「可愛いスイカよ、お前はこの男のもんかぁ?」

「ウギャギャーーー!」「た・助けてくれー」
あまりの痛さに、とうとう盗んできたことを白状しました。

次の年もテル婆は、スイカ畑でセッセと草取り……その横には婆を助け汗水流し働くあの怠け者、いいえもう怠け者ではありませんね。

収穫の時、神様と仏様へ一番先にお供え、二人は仲良く真っ赤に熟れたスイカを頬ばったとさ。

お・し・ま・い。

※このお話は、私が幼い頃実際に祖母と、体験したことに基づいて書きました。
汗水流し働き、神仏から授かる食べ物は、本当に美味しいね。



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